軌路力学 第2章 第3節 96%への弁明 (1)

ニュートンは地上にいた

 どうしてりんごはニュートンのほうへ落ちてきたのか。りんごが地球に引っ張られているためだ。ニュートンの法則の両辺に高さを掛けると、
   
 右辺はポテンシャルエネルギーなので、
   
 地球を包むようにポテンシャルエネルギーの圏があり、そこから外れると物体の運動は地球に影響を及ぼされない。そしてその圏は力と高さの積である。高さは物体の表面間の距離である。圏の中でどのような物体が運動しても、ポテンシャルエネルギーが運動エネルギーに変化する。地上を這うときはポテンシャルエネルギーの変化がほとんどない中で力を生み出していく必要がある。
 エネルギー問題はポテンシャルエネルギーに頼らずにいかに運動エネルギーを稼ぐかという問題であった。しかし物体が地球の圏に入ったことによるポテンシャルエネルギーも利用可能だ。たとえば降雨降雪や宇宙線は利用できるだろうか。また、運動エネルギーに変えればよいので、電気を経由せずに物体を動かせるだろうか。

りんごが月へ行くには

 ニュートンが落ちてきたりんごを投げ上げたらやはり地上に落ちてきた。では、りんごはニュートンがどのくらいの力で投げ上げたら月に落ちただろう。地球と月を結ぶ線上にりんごを置く。りんごは地球からの高さと月からの高さの和、すなわち地球と月の距離を内分する。この線分の重心にりんごが乗れば、りんごは衛星のように周回する。りんごが月のエネルギー圏に入れば、月のほうへ引き寄せられていく。月の重力である。
     
 これは理想的な模型である。実際は太陽もあるし、ニュートンがりんごを投げ上げたのは満月の日ではなかったかもしれない。新月の日であれば、より太陽のポテンシャルエネルギーがやや影響する。

りんごが伝える力

 径の異なる原子間ではたらく力も、エネルギー圏を使って考えられる。原子間では粒子を交換して力を伝えているが、粒子は原子をどうして飛び出せるのか。エネルギー圏を脱け出せるだけの運動エネルギーを持ってしまったためだ。
 このように、高さは計算したい物体間で任意に決められる。ポテンシャルエネルギーは相対的で、いかなる物体間にも存在してしまう。すべての物体について、あらゆる物体に対しポテンシャルエネルギーが設定される。重力はあらゆる物体がもっているがヒトには見えないダークな力である。