コラーゲン論

単純なコラーゲンモデル

 コラーゲンたっぷりのスープを飲みながら、お肌がよろこぶ、と喜ぶ女子。え、コラーゲンの経口摂取は効果ないんだよ、と物知り顔で言う冷めた男子。彼らの言っていることは一理あるように思えます。というのも、肌がすべすべの65歳が「私は○○コラーゲン!」と宣言している広告を見ると、ついそのような反応をしてしまいそうだからです。ドラッグストアで粉末コラーゲンやグミを大人買いしてみたくもなります。
 しかし、彼らがもし、コラーゲンを食べるとそのまま肌にコラーゲンが補給される、とか、分解されるのでコラーゲンは肌とは関係ない、と考えているなら、それは生命を単純に捉えすぎています。きょうの記事を読んで、生命の複雑さの実像をイメージしてみてください。

単純モデルの先に

 コラーゲンは、DNA、ケラチンのフィラメントに次ぐ、生命第3の多重らせんです(私がここで勝手にそう言っているだけですが)。コラーゲンはタンパク質なので、アミノ酸がペプチド結合でつながったものです。でも、最も単純なアミノ酸グリシンが約3分の1、プロリンと「-OH」がついたプロリンが計約3分の1を占める、けっこう成分が偏ったタンパク質です。なぜかといえば、この3種類のアミノ酸が並んだ単位が千何百回も繰り返されているからです(3種類のうちグリシン以外は欠けることがよくあります)。
 コラーゲンは胃で酵素ペプシンによってアミノ酸が2〜3個連なったペプチド、あるいはシングルのアミノ酸にまで分解されます。もともとグリシンプロリンもふつうの食品に十分含まれているので、コラーゲンを作る細胞への栄養はふつうの食事で十分です。それに「-OH」がついたプロリンは、食べてもコラーゲンを作る細胞の中に入れません。また、その細胞がコラーゲンを作るためには、ビタミンCと、リシンというアミノ酸、それに鉄を欲します。
 しかし、「-OH」がついたプロリンを含むペプチドは、傷んだ皮膚にコラーゲンを作る細胞を引き寄せる役割を果たしています。また、血管の中に入って全身に運ばれている間に血圧を下げたり、コラーゲンが主成分である骨の密度が下がるのを抑える効果もあるそうです。間接的に効果があるともいえるし、直接は効果がないともいえます。

イメージ戦略

 コラーゲンもそうですが、サプリメントは、法律的には薬ではないものの、成分が偏った食品です。サプリメントは量によって毒にも薬にもなります。ひょっとするとある日突然アレルギーに罹るかもしれない、そのくらい危険を覚悟して食べるものです。というのは、口にして体内に入れるものですから、なんの反応も起こさないわけはないのでしょうから。少なくともなにかのシグナル分子にはなりえます。
 体に入った食べ物がどんな分子と反応して排出されるかというのを科学で調べるのは、実は相当大変です。透明な生物を使って、光や色素によるイメージングで画像解析、という戦略が流行っているところです。これは方法上の課題であり、科学者の無能を表すのではありません。
 われわれはまだわれわれについて知らなすぎます。その宙ぶらりんの無知の中で、われわれは口にするものを日々決めています。放射線騒動や健康ブームのツボは、まだわれわれの誰の手にも負えない、その無知なのです。