軌路力学 第2章 第2節 タイムマシンのつくり方

重力と時間

 時間は重力加速度に反比例するものである。重力によって時間の長さは伸縮する。出発地よりも重力の薄いところで運動すると時間の長さも長くなるため、充分長い距離を旅行すると旅行先で時間が早くなる。浦島効果である。時間の流れのゆるさは重力の強さに比例するので、重力分布が一様でない空間では、時間の流れもまた一様ではない。宇宙を旅行すると重い星がいくつもあるが、重い星の近傍では時間の長さが短く、ゆっくりと感じる。
 ここである問題を考えてみたい。時間旅行機はどんな機能であれば実現できるだろうか。ニュートンの描像もアインシュタインの描像も、宇宙の時刻は宇宙のどこへ行っても絶対的に等しかった。つまり宇宙の時刻をはかる時計を想定していた。それはそうである。しかし、時間の長さは重力によって長くも短くもなるのだった。時間の長さが伸縮するなら、時刻はすべての宇宙で一様だろうか。

時刻と時間

 ある長さの時間をもつ空間では、時刻は時間の分数である。つまり、時間を細かく刻んだ長さが時刻である。すると、時刻はその空間における時間の長さによって変わる。特定の時間の長さを持つ空間ではその長さの時刻を持ってニュートン力学が成立する。さらに、空間に濃さがなく一様であると考えると、それが無限無辺であれ、時間の長さはあちこちで異なる。従って時間を第4の変数とする相対論が成立する。
 だが、なぜ時間の長さがあちこちで変わる変数であるかといえば、星の重さによって重力の空間分布が一様でありえないからだ。物質のない太古の宇宙空間では、時間は一様だった。宇宙はおおもとをただせば、時間が一様の空間であり、静かな状態が驚くべき長い間保たれていたとみられる。しかし、物質の出現によって物質の運動が起きた。力の出現である。次の式がある。
 
 物質の起源は力か、質量か、加速度かという議論をすると、どうやら時間が起源といえそうである。宇宙も永遠に物質を生まずにいることはできなかったと、この式は語っている。時間が重力を生み、エネルギーは運動をはじめ、力が出現し、加速度をつけて離れていったのだ。 

タイムマシンの設計

 地球から飛び立ち戻ってくると、地球より重力の大きい空間で時間の長さが短い運動をするため、地球の時刻より過去に行ける。地球の重力から自由な宇宙空間で道草を食いながら、地球へ戻ってくることができれば時間旅行によって未来へ行くことができる。地球よりも重い天体が地球の近所にないため、過去に戻るには地球より軽い天体で道草を食う必要がある。

 重力の大きな天体の周りを数周、速度を一定に航行すると、重い天体の周囲で時刻距離の間隔が短くなり、時間が遅れる。出発した天体で流れていた時間と航行していた時間を比べると、航行で縮んだ分の時間だけ過去に行ける。出発天体より軽い天体へ航行する場合はこの逆である。
 ここで設計である。宇宙エレベータで使われる繊維を地球から遠くに飛ばし、地球に戻ってくるようにすれば、IKAROSのように軽くて薄いタイムマシンができる。時間旅行の航路を繊維が担い、光の圧力で進む膜に穴をあけて客席とするのである。どのくらいの航路が必要であるかは、どのくらい昔に行きたいかによるため、繊維で航路の長さを決めずに、道草を食うための駐在所を設けるとよいと思われる。