USBシーケンサー

配列の時代

 先日大学で行われた発表会で、「高温高圧下でも変性しないタンパク質は、構造を変化しにくくする部分構造を備えている」「レチノイン酸受容体がとりつくDNA配列を化学的結合強度とともに網羅的に調べた」研究を拝聴した。前者はタンパク質のその部分構造がコードされているDNA配列がどんな生物由来のものか(ある細菌だった。)まで考察されていたし、後者はその特定のDNA配列に多少の変異がある場合まで網羅的に調べられており、非常に優れた研究だと思った。
 彼らはDNA/アミノ酸配列データベースを用いた。そう、配列データさえ手に入れば、たとえその配列がどこの馬の骨からとったのかわからなくても、その馬の生物種や進化の足跡、果てはその馬がどのような病気で命を落としやすいかという情報まで得られる。
 「馬」を「人間」に置き換えてみよう。自分やあなたがどんな生物学的特徴があり、どこから来た祖先をもち、どのような病気に罹りやすいかという情報まで得られる。体の中に蓄積されている情報を読み取ることで、人間の根本的な問題「自分」「ルーツ」「死」についての思索を進めることができる。
 そんな手がかりを手軽に調べられる装置が、つい先日発表された。

7万円の未来型装置

 「Oxford Nanopore Technologies」社が発売する「MinION」(写真)である。PCのUSBコネクタに接続し、穴にサンプルを入れるだけで、最短15分で配列データが得られる。原理はこちらを参照。使い捨てで、価格は900ドル。今年の夏ごろ販売を開始する。
 ゲノム解読はビジネスになりつつあり、「23andMe」社、「deCODE」社、「Navigenics」社は、例えば頬の内側の細胞などのサンプルを返送することで、配列解析結果を知らせる、というサービスを行っている。価格は「23andMe」社で500ドル。ただ、特定の病気のなりやすさや、眼や肌の色(日頃の自己認識と合っているだろうか)などの、統計的結果を提供するが、生のデータ(配列そのもの)を得ることはできない。
 「MinION」なら得た生データから、配列データベースを駆使して、自分やあなたについて常に最新にアップデートされた科学データの中を縦横無尽に調べることができる。

もうちょっと先の未来

 このキットをいずれ買いたい旨を母に仄めかしたところ、「生活に必要ないから買うのはやめなさい。うちの祖先は新潟のド田舎の出身だ。7万円はほかのことに使いなさい」と呆れられた。7万円という大きな買い物ができるのは、仕事が手についた、もうちょっと先の未来である。