大発見のその後

 元文献はNature 474, 19 (2011)。

ヒ素細菌のその後

 2010年、NASAの女性研究者ウォルフェ=サイモン氏らが、カリフォルニア州にあるモノ湖でヒ素を利用して生存する細菌を発見したという論文(Science, doi:10.1126/science.1197258 (2010))が発表された。当初、NASAが事前に重大な報告があるとしてマスメディアに伝えていたこともあり、世紀の大発見かとも受け取られた。
 しかし、「ヒ素を取り込んで生きている」ことや「DNAにヒ素を使っている」ことについて懐疑的な科学者が大勢を占めていて、翌年Science誌に8本の批判的なコメントとウォルフェ=サイモン氏の答弁が載った。

批判の内容

 その批判の内容はたとえば次のようなものである。
1.論文のデータからではDNAにリンの代わりにヒ素を取り入れているとは言えない
 ヒ素培地で培養してからDNAを質量分析で調べるべきだという主張。
2.培地にリンが微量に含まれている
 リンが少しでも入っていれば細菌が数回分裂するのに十分だという主張。
3.ヒ素塩は化学的に不安定なので生物に不向き
 不安定な物質をDNAに取り込んで長いこと種として繁殖しているのが疑問という主張。
そのほかに、これだけ批判されているのに著者らが主張を強化するデータをひとつも出していないことが、不信感につながっているという意見も。

再現実験の人気がない

 ウォルフェ=サイモン氏は、再現実験を奨励するために、ヒ素細菌「GFAJ-1」をすすんで分け与えることにしている。しかし、「根本的に間違っている実験を再現するなど時間の無駄で、仮にラボの学生にやらせてもその学生の就職先をどうやって見つければよいのか」という教授もおり、実験をしてくれる研究者はなかなか現れないそうである。
 科学の大発見への風当たりはいつの時代もつらいものである、とわかっていても。