始祖鳥の立ち位置

「始祖鳥が始祖」ではない?

 鳥類は爬虫類から進化した。その仮説の起源は、1861年の始祖鳥(アーケオプテリクス)の化石の発見である。1859年にダーウィンの『種の起源』が出版されたばかりだったので、始祖鳥は特別な取り扱われ方をされ、現在も日本の中学生は「始祖鳥は恐竜から分岐した最初の鳥類」と教わっている。
 しかし、Nature 475, 465-470 (2011)は、始祖鳥が鳥類の最古の祖先ではない説を裏付ける、始祖鳥に似た化石を発掘した。始祖鳥は単なる恐竜の一種に過ぎないかもしれないのだ。

冷めたくくられ方

 始祖鳥の3大特徴は、「羽毛・叉骨・3本の指」。アメリカの古生物学の権威オストロム氏はこの特徴から、「鳥類は恐竜から進化し始祖鳥は最古の鳥類である」 と長大な論文Biol. J. Linn. Soc. 8, 91-182 (1976)で論証した。これが広まったので、「始祖鳥は最古の鳥類」という見方も学校で教わる知識となった。
 しかし、ここ15年で3大特徴を持つ恐竜の化石が多数報告されている(PNAS 108, 232-237 (2011)など)。頭蓋骨の特徴などから始祖鳥類の分類学上の再編が起きており、鳥類と始祖鳥類を含む「原鳥類Paraves」というより広い括りも生まれている。
 この新しい括り方では、始祖鳥はデイノニコサウルス類という恐竜の一種に過ぎず、鳥類からはだいぶ(7分岐点)離れている。鳥類が分岐した最近の原鳥類は「孔子鳥Confuciusornis」となる。

キャラは崩壊しない

 今回の発見で、鳥類が恐竜から進化した というオストロム氏の定説は覆らない。しばらくの間、孔子鳥にヒーローの役回りを奪われてしまうにしても、始祖鳥が「歴史上の有名人」であることはおそらく変わらないだろう。
 ところで、今回の論文を読んで些か驚いたのは、「ゲノム」の文字が見当たらなかったことだ。古生物学では形態学がいまだに幅をきかせているのだ。系統樹の樹立にはゲノム解析だけでなく形態学もたしかに必要だ。だが、マンモスなど絶滅した種を再現する研究が進まないのは、技術的な問題ではなく、古い体質が原因なのかもしれない。